子宮摘出手術を控えて・・
「おかゆが食べれないんです」
Cさんは、地下鉄までの帰り道で笑いながら教えてくれた。
2ヵ月後に子宮筋腫とがんのために子宮と卵巣を摘出手術を受けることが決まっていて、入院中の食事のことである。
あの匂いを嗅ぐと吐きそうになるということだったので、ぼくは、のりの佃煮やだし醤油などで味をごまかさないといけませんねと答えた。
地下鉄入り口まで同行したが、タクシーで帰るということだったので、そこで別れることとなった。
「手術が終って落ち着いたら連絡します」
笑顔で彼女は去って行った。
彼女が施術をしようと決めた動機は手術にある。20代前半で結婚、約1年後に離婚してからそれなりに付き合った男性がいたものの再婚するまでにはいたらず、30代後半から現在にいたる10年ぐらいは異性と付き合う気持ちも湧かなかったという。
仕事の影響で食事時間も遅く不規則になり、体型も肥満化が進んだ。やがてファッションなどにも気を遣うことが少なくなってきたようで、彼女曰く、「完全なおっさん化状態」になっているとのことだった。
今回、子宮と卵巣をすべて摘出するということが、避けられなくなったために精神的なオッサン化だけでなく肉体的にも女性でなくなってしまうような気がして悲しさがこみ上げてきたようだ。
彼女に施術する3日前に30代前半の女性を施術していた。その女性も子宮と卵巣の摘出手術をされていて膣も塞がってしまうような状況だったが、自分の努力で男性器を受け入れられるぐらいの状態に戻していた。
興奮時の分泌液も十分に分泌されていて性交することに支障はまったくない状態だった。
Cさんには、その話をさせてもらった。
更年期に入って閉経を実感するようになる女性も同じ様に女性ではなくなるのではないかという不安を持つ場合があるが、これまで施術をさせていただいた方の中には女性としての悦びを感じられなくなった人はいなかった。
彼女に対しては、手術後に体調が戻ればまた施術を受けて女性だということを実感してほしいと思う。
精神的にも肉体的にも負担がかなりある手術を控えているのだが、彼女からは悲壮感はまったく感じられなかった。職場や家族にも気丈夫に答えているようだ。
しかし話の内容によって何度か目に涙を浮かべていた。どんな人でも家族や友人に対して言えそうで言えない事がある。心配をかけたくないとか恥ずかしいとかいう気持ちが湧いてしまうのかもしれない。
猫に対してはなんでも話せるのにとつぶやかれていた。2匹の猫を飼っているみたいで、帰宅するとまっさきに出迎えてくれる人なつこい猫のようだ。
「嫌な答えを返さないとわかっているから何でも打ち明けられるかもしれませんね」
僕は、結婚していた時に自分の奥さんに対していつも自分の考えを押し付けていたことを思い出しながら答えていた。猫のようにしていれば離婚することもなかっただろう。
人に悩みを打ち明けることを躊躇してしまう一番の原因は自分が期待している反応を得られなかったときの不満を抱きたくないからかもしれない。
120分の施術を終え、素に戻ったとたんに恥ずかしさがまた復活しましたといいながら顔を隠すようなしぐさをされている時には、オッサン化ではなく乙女化していたように思う。
今回の病気による手術は彼女にとって新しいスタートを切るために神様がくれた贈り物だったのかもしれない。